お勉強メモ

経済学・計量経済学・統計学などのお勉強メモです。

計量経済学メモ:線形トレンドモデル、GDPギャップ

・本稿の内容
線形トレンドモデルを用いたGDPギャップの簡単な求め方をメモします。*1

・本文

Ⅰ.線形トレンドモデル、成長率の公式

線形の確定トレンドを持つ以下の回帰モデルを線形トレンドモデルと呼ぶ。



Y_t = \mu + \delta t+u_t ・・・①

ここでtは毎期1ずつ増加していく整数、u_tは平均が0の定常な確率変数である。

①式の期待値を取ると



E(Y_t) = \mu + \delta t ・・・②

と書ける。

①式の\mu + \delta tの部分をY_tのトレンド成分、u_tの部分を循環成分と解釈する。
①式をOLS推定して得られた残差\hat{u_t}u_tの推定値として用いる。

次に、上記の線形トレンドモデルでY_tを実質GDP(対数値)とすれば、
残差\hat{u_t}GDPギャップとして解釈できることを確認する。

以下ではx_{t-1}からx_tへの成長率に関するよく知られた次の関係を用いる。



\dfrac{x_t - x_{t-1}}{x_{t-1}}\approx log(x_t )-log(x_{t-1})

つまり、成長率は対数の差で近似できる。

Ⅱ.GDPギャップの導出

原系列の実質GDPのトレンド成分がe^{\delta t}であるとする。
自然対数で変換すると、



loge^{\delta t}=\delta t

である。

この自然対数で変換したトレンド成分の差分(つまり、成長率)loge^{\delta t}-loge^{\delta (t-1)}



\delta t-\delta (t-1)=\delta

であるから、トレンド成分(潜在GDP)成長率は一定となる。

1994年から2019年までの実質GDP(平成27年基準、暦年)を用いて、線形トレンドモデルを推定する。
データはここから取得した。
推定にはExcelのデータ分析ツールを用いる。
まず以下の画像のようにデータを整理する。

画像1

次にデータ分析ツールで回帰分析を選択し、
入力Y範囲に実質GDP(自然対数変換)、入力X範囲にタイムトレンドを指定する。
残差も使用するため、残差にチェックを入れる。

以下のように推定結果が出力される。

画像2

この推定結果より、線形トレンドモデルの推定式は



実質GDP(自然対数変換)_t = \underset{(0.008)}{13.03}+  \underset{(0.0005)}{0.0076t}+\hat{u_t} ・・・③

である。※()内は標準誤差。係数は適当な位置で四捨五入している。

タイムトレンドtの係数は0.0076であるから、トレンド成分(つまり、潜在GDP)の成長率は0.76%である。
実質GDP(自然対数変換)と分析結果として得られたトレンド成分(画像2のL列の予測値:Y)、残差\hat{u_t}(画像2のM列の残差)をグラフにしてみる。

画像3
※残差\hat{u_t}(GDPギャップ)は100倍している。

Ⅲ.注意点

以上のように線形トレンドモデルを用いて、簡単にGDPギャップを求めることができた。
ただし、注意しておくべき点がいくつか存在する。
1.線形トレンドモデルは非定常である(②式から明らかなように、Y_tの平均値が時間とともに変化する)
2.誤差項に系列相関がある場合はOLS推定量は効率的ではない
3.サンプルサイズが小さい(今回は1994年~2019年までの暦年データが26個)
などである。
詳細は西山ほか(2019)P533~を参照。

・参考文献
西山慶彦・新谷元嗣・川口大司・奥井亮 (2019)『計量経済学』有斐閣

*1:内閣府日銀では本稿よりももっと高度な手法を用いてGDPギャップを算出しています。