お勉強メモ

経済学・計量経済学・統計学などのお勉強メモです。

時系列分析メモ:差分方程式(2)

・本稿の内容
時系列分析で使用する差分方程式のメモです。前回は逐次的に代入を行う形で差分方程式の解を求めました。今回からは差分方程式の同次部分(y_{t}=a_{0}+a_{1}y_{t-1}+\varepsilon_{t}a_{1}y_{t-1}の部分)の解(以下、同次解)と特殊解の和が一般解となることを確認していきます。今回は、同次解の求め方に焦点を当てていきます。本稿の内容の多くは、ウォルター・エンダース著,新谷元嗣・薮友良訳 (2019)『実証のための計量時系列分析』有斐閣の第1章に基づいています。
・本文

Ⅰ:1次の差分方程式の同次解

定数項と誤差項を持つ1次の差分方程式



y_{t}=a_{0}+a_{1}y_{t-1}+\varepsilon_{t}・・・①
a_{0},\varepsilon_{t}0とした式



y_{t}=a_{1}y_{t-1}・・・②

のことを同次方程式と呼ぶ。②式の解(同次解)を求めていく。y_{t}=y_{t-1}=\cdots=0が同次解であることは明らかである。前回導出した以下の式



y_{t}=a_{0}\sum\limits_{i=0}^{t-1} a_{1}^{i}+a_{1}^{t}y_{0}+\sum\limits_{i=0}^{t-1} a_{1}^{i}\varepsilon_{t-i}・・・③

を再掲する。③式でa_{0}=0,\varepsilon_{t}をすべてのtに関して0とおくと、



y_{t}=a_{1}^{t}y_{0}・・・④

となる。②式の同次解は④式だけではない。任意の定数Aa_{1}^{t}にかけたy_{t}=Aa_{1}^{t}も解である。このことを確認する。y_{t}=Aa_{1}^{t}を②式に代入すると



\begin{eqnarray}
Aa_{1}^{t}&=&a_{1}Aa_{1}^{t-1}\\
&=&Aa_{1}^{t}
\end{eqnarray}

となり、両辺が等しくなるから、y_{t}=Aa_{1}^{t}は②式の解であることが確認できた。A=0のとき、y_{t}=0となり、A=y_{0}のとき、y_{t}=a_{1}^{t}y_{0}となる。前回導出した以下の式を再掲する。



y_{t}=\dfrac{a_{0}}{1-a_{1}}+\sum\limits_{i=0}^{\infty} a_{1}^{i}\varepsilon_{t-i}・・・⑤

y_{t}=Aa_{1}^{t}と⑤式を足した式は前回導出した以下の式



y_{t}=Aa_{1}^{t}+\dfrac{a_{0}}{1-a_{1}}+\sum\limits_{i=0}^{\infty} a_{1}^{i}\varepsilon_{t-i}・・・⑥

と等しくなる。⑤式は⑥式でA=0とした場合に相当する特殊な形であるという意味で、特殊解と呼ばれる。⑥式は同次解であるy_{t}=Aa_{1}^{t}と特殊解である\dfrac{a_{0}}{1-a_{1}}+\sum\limits_{i=0}^{\infty} a_{1}^{i}\varepsilon_{t-i}の和となっている。同次解と特殊解の和を一般解とよぶ。



\underbrace{y_{t}}_{\text{一般解}}=\underbrace{Aa_{1}^{t}}_{\text{同次解}}+\underbrace{\dfrac{a_{0}}{1-a_{1}}+\sum\limits_{i=0}^{\infty} a_{1}^{i}\varepsilon_{t-i}}_{\text{特殊解}}

Ⅱ:2次の差分方程式の同次解

定数項と誤差項を持つ2次の差分方程式



y_{t}=a_{0}+a_{1}y_{t-1}+a_{2}y_{t-2}+\varepsilon_{t}・・・⑦
の同次部分はa_{0},\varepsilon_{t}0とした式



y_{t}=a_{1}y_{t-1}+a_{2}y_{t-2}・・・⑧

である。⑧式の右辺の項を左辺に移行する



y_{t}-a_{1}y_{t-1}-a_{2}y_{t-2}=0・・・⑨

1次の差分方程式の同次解を求めた際の類推で適当なパラメータ\lambdaを用いてy_{t}=A\lambda^{t}を⑨式に代入する。



A\lambda^{t}-a_{1}A\lambda^{t-1}-a_{2}A\lambda^{t-2}=0・・・⑩

⑩式の両辺をA\lambda^{t-2}で割ると



\lambda^{2}-a_{1}\lambda-a_{2}=0・・・⑪

となる。⑪式を満たす\lambdaが存在するなら、y_{t}=A\lambda^{t}は⑧式の同次解であると言える。この⑪式のことを特性方程式とよぶ。そして⑪式を満たす根のことを特性根とよぶ。⑪式を満たす根は2次方程式の解の公式を用いて、



\lambda_{1}=\dfrac{-(-a_{1})+\sqrt{(-a_{1})^{2}-4×1×(-a_{2})}}{2×1}=\dfrac{a_{1}+\sqrt{a_{1}^{2}+4a_{2}}}{2}\\
\lambda_{2}=\dfrac{-(-a_{1})-\sqrt{(-a_{1})^{2}-4×1×(-a_{2})}}{2×1}=\dfrac{a_{1}-\sqrt{a_{1}^{2}+4a_{2}}}{2}

となる。A\lambda_{1}^{t}A\lambda_{2}^{t}は⑨式の同次解であるが、これらの線形結合A_{1}\lambda_{1}^{t}+A_{2}\lambda_{2}^{t}(A_{1},A_{2}は任意の定数)も⑨式の同次解である。このことを確認する。⑨式にy_{t}=A_{1}\lambda_{1}^{t}+A_{2}\lambda_{2}^{t}を代入して整理すると



A_{1}\lambda_{1}^{t}+A_{2}\lambda_{2}^{t}-a_{1}(A_{1}\lambda_{1}^{t-1}+A_{2}\lambda_{2}^{t-1})-a_{2}(A_{1}\lambda_{1}^{t-2}+A_{2}\lambda_{2}^{t-2})=0\\
A_{1}(\lambda_{1}^{t}-a_{1}\lambda_{1}^{t-1}-a_{2}\lambda_{1}^{t-2})+A_{2}(\lambda_{2}^{t}-a_{1}\lambda_{2}^{t-1}-a_{2}\lambda_{2}^{t-2})=0・・・⑫

となる。⑩式に注意すると⑫式の左辺は0となることが分かる。よってA_{1}\lambda_{1}^{t}+A_{2}\lambda_{2}^{t}が⑨式の同次解であることが確認できた。以下では、この同次解の線形結合のことを完全な同次解と呼ぶことにする。完全な同次解A_{1}\lambda_{1}^{t}+A_{2}\lambda_{2}^{t}は判別式D=a_{1}^{2}+4a_{2}の値によって性質が異なる。以下ではD>0,D=0,D<0の3パターンで確認していく。

Ⅱ-1:D>0の場合(特性根が相異なる実根)

D>0の場合、特性根は、



\lambda_{1}=\dfrac{a_{1}+\sqrt{D}}{2}\\
\lambda_{2}=\dfrac{a_{1}-\sqrt{D}}{2}

である。よって、完全な同次解は



y_{t}=A_{1}\left(\dfrac{a_{1}+\sqrt{D}}{2}\right)^{t}+A_{2}\left(\dfrac{a_{1}-\sqrt{D}}{2}\right)^{t}

である。具体例として、



y_{t}=0.75y_{t-1}-0.125y_{t-2}・・・⑬\\
y_{t}=0.7y_{t-1}-0.35y_{t-2}・・・⑭

の2式を見ていく。⑬式の判別式DD=(0.75)^{2}-4×0.125=0.0625であり、特性根は相異なる実根



\lambda_{1}=\dfrac{0.75+\sqrt{0.0625}}{2}=0.5\\
\lambda_{2}=\dfrac{0.75-\sqrt{0.0625}}{2}=0.25

である。よって、完全な同次解は任意の定数A_{1},A_{2}を用いて



y_{t}=A_{1}(0.5)^{t}+A_{2}(0.25)^{t}・・・⑮

となる。⑭式の判別式DD=(0.7)^{2}+4×0.35=1.89であり、特性根は相異なる実根



\lambda_{1}=\dfrac{0.7+\sqrt{1.89}}{2}=1.04\\
\lambda_{2}=\dfrac{0.7-\sqrt{1.89}}{2}=-0.34

である。よって、完全な同次解は任意の定数A_{1},A_{2}を用いて



y_{t}=A_{1}(1.04)^{t}+A_{2}(-0.34)^{t}・・・⑯

となる。

Ⅱ-2:D=0の場合(特性根が実重根)

D=0の場合、\lambda_{1}=\lambda_{2}=\dfrac{a_{1}}{2}となり、同次解は\left(\dfrac{a_{1}}{2}\right)^{2}となるが、\left(\dfrac{a_{1}}{2}\right)^{2}tをかけた、t\left(\dfrac{a_{1}}{2}\right)^{2}も同次解となる。(⑨式に代入して式を整理することで確認できる。計算は省略。)よって、完全な同次解は



y_{t}=A_{1}\left(\dfrac{a_{1}}{2}\right)^{t}+A_{2}t\left(\dfrac{a_{1}}{2}\right)^{t}

である。具体例として、



y_{t}=1.8y_{t-1}-0.81y_{t-2}・・・⑰\\
y_{t}=8y_{t-1}-16y_{t-2}・・・⑱

の2式を見ていく。⑰式の判別式DD=(1.8)^{2}-4×0.81=0であり、特性根は実重根



\lambda_{1}=\lambda_{2}=\dfrac{1.8}{2}=0.9\\

である。よって、完全な同次解は任意の定数A_{1},A_{2}を用いて



y_{t}=A_{1}\left(0.9\right)^{t}+A_{2}t\left(0.9\right)^{t}・・・⑲

となる。⑰式の判別式DD=(8)^{2}+4×(-16)=0であり、特性根は実重根



\lambda_{1}=\lambda_{2}=\dfrac{8}{2}=4\\

である。よって、完全な同次解は任意の定数A_{1},A_{2}を用いて



y_{t}=A_{1}\left(4\right)^{t}+A_{2}t\left(4\right)^{t}・・・⑳

となる。

Ⅱ-3:D<0の場合(特性根が複素根)

D<0の場合、特性根は



\lambda_{1}=\dfrac{a_{1}+i\sqrt{-D}}{2}\\
\lambda_{2}=\dfrac{a_{1}-i\sqrt{-D}}{2}
である。よって、完全な同次解は



y_{t}=A_{1}\left(\dfrac{a_{1}+i\sqrt{-D}}{2}\right)^{t}+A_{2}\left(\dfrac{a_{1}-i\sqrt{-D}}{2}\right)^{t}

となる。さらに、ド・モアブルの定理により、



y_{t}=C_{1}r^{t}\cos(\theta t+C_{2})

となる。*1ここで、C_{1},C_{2}は任意の定数、rr=\sqrt{-a_{2}}\theta\cos\theta =\dfrac{1_{1}}{2\sqrt{-a_{2}}}を満たす。具体例として、



y_{t}=1.6y_{t-1}-0.9y_{t-2}・・・㉑\\
y_{t}=1.6y_{t-1}-1.2y_{t-2}・・・㉒

の2式を見ていく。㉑式の判別式DD=(1.6)^{2}-4×0.9=-1.04であり、特性根は複素根



\lambda_{1}=\dfrac{1.6+i\sqrt{-(-1.04)}}{2}\\
\lambda_{2}=\dfrac{1.6-i\sqrt{-(-1.04)}}{2}

である。r=\sqrt{0.9}=0.949\theta\cos\theta =\dfrac{1.6}{2×\sqrt{0.9}}=0.843を満たすように決定され、\theta=0.567である。よって、完全な同次解は任意の定数C_{1},C_{2}を用いて



y_{t}=C_{1}(0.949)^{t}\cos(0.567t+C_{2})・・・㉓

となる。㉒式の判別式DD=(1.6)^{2}-4×1.2=-2.24であり、特性根は複素根



\lambda_{1}=\dfrac{1.6+i\sqrt{-(-1.04)}}{2}\\
\lambda_{2}=\dfrac{1.6-i\sqrt{-(-1.04)}}{2}

である。r=\sqrt{1.2}=1.1\theta\cos\theta =\dfrac{1.6}{2×\sqrt{1.2}}=0.727を満たすように決定され、\theta=0.757である。よって、完全な同次解は任意の定数C_{1},C_{2}を用いて



y_{t}=C_{1}(1.1)^{t}\cos(0.757t+C_{2})・・・㉔

となる。

Ⅲ:同次解の時間経路

式⑮、⑯、⑲、⑳、㉓、㉔時間経路を確認していく。式⑮、⑯、⑲、⑳ではA_{1}=A_{2}=1とし、式㉓、㉔ではC_{1}=1C_{1}=0とする。時間経路を確認するためのPythonコードを下記に記載する。

import matplotlib.pyplot as plt
import math

#x:横軸(時間)y:縦軸(yの値)
x=[]
y=[]

#同次解
def homosolu(t):
  #15式
  return 0.5**t+(0.25)**t
  #16式
  #return 1.04**t+(-0.34)**t  
  #19式        
  #return (0.9)**t+t*(0.9)**t    
  #20式     
  #return 4**t+t*(4**t) 
  #23式       
  #return 0.949**t*math.cos(0.567*t)
  #24式
  #return 1.1**t*math.cos(0.757*t)

#ループ
for i in range(1,30):
  x.append(i)
  y.append(homosolu(i))

#グラフ描画
plt.plot(x,y) 
plt.ylabel("y")
plt.xlabel("t")

⑮式:y_{t}=A_{1}(0.5)^{t}+A_{2}(0.25)^{t}の時間経路は以下の図のようになる。

tが大きくなるにつれて、y_{t}が小さくなり、0に収束する。

⑯式:y_{t}=A_{1}(1.04)^{t}+A_{2}(-0.34)^{t}の時間経路は以下の図のようになる。

tが小さい領域では単調な動きではないが、tが大きくなるにつれて、y_{t}が大きくなり発散する。

⑲式:y_{t}=A_{1}\left(0.9\right)^{t}+A_{2}t\left(0.9\right)^{t}の時間経路は以下の図のようになる。

tが小さい領域ではy_{t}の値が大きくなるが、tが大きくなるにつれて、y_{t}が小さくなり0に収束する。

⑳式:y_{t}=A_{1}\left(4\right)^{t}+A_{2}t\left(4\right)^{t}の時間経路は以下の図のようになる。

式からも明らかなように、tが大きくなるにつれて、y_{t}が大きくなり発散する。

㉓式:y_{t}=C_{1}(0.949)^{t}\cos(0.567t+C_{2})の時間経路は以下の図のようになる。

tが大きくなるにつれて、振幅が小さくなりながら、y_{t}は0に収束する。

㉔式:y_{t}=C_{1}(1.1)^{t}\cos(0.757t+C_{2})の時間経路は以下の図のようになる。

tが大きくなるにつれて、振幅が大きくなりながら、y_{t}は発散する。

*1:詳しい計算過程はエンダース著,新谷・藪訳[2019]のP45~を参照してください。