・本稿の内容
時系列分析で使用する差分方程式のメモです。前回は逐次的に代入を行う形で差分方程式の解を求めました。今回からは差分方程式の同次部分(のの部分)の解(以下、同次解)と特殊解の和が一般解となることを確認していきます。今回は、同次解の求め方に焦点を当てていきます。本稿の内容の多くは、ウォルター・エンダース著,新谷元嗣・薮友良訳 (2019)『実証のための計量時系列分析』有斐閣の第1章に基づいています。
・本文
Ⅰ:1次の差分方程式の同次解
定数項と誤差項を持つ1次の差分方程式
のことを同次方程式と呼ぶ。②式の解(同次解)を求めていく。が同次解であることは明らかである。前回導出した以下の式
を再掲する。③式で,をすべてのに関してとおくと、
となる。②式の同次解は④式だけではない。任意の定数をかけたも解である。このことを確認する。を②式に代入すると
となり、両辺が等しくなるから、は②式の解であることが確認できた。のとき、となり、のとき、となる。前回導出した以下の式を再掲する。
と⑤式を足した式は前回導出した以下の式
と等しくなる。⑤式は⑥式でとした場合に相当する特殊な形であるという意味で、特殊解と呼ばれる。⑥式は同次解であると特殊解であるの和となっている。同次解と特殊解の和を一般解とよぶ。
Ⅱ:2次の差分方程式の同次解
定数項と誤差項を持つ2次の差分方程式
である。⑧式の右辺の項を左辺に移行する
1次の差分方程式の同次解を求めた際の類推で適当なパラメータを用いてを⑨式に代入する。
⑩式の両辺をで割ると
となる。⑪式を満たすが存在するなら、は⑧式の同次解であると言える。この⑪式のことを特性方程式とよぶ。そして⑪式を満たす根のことを特性根とよぶ。⑪式を満たす根は2次方程式の解の公式を用いて、
となる。、は⑨式の同次解であるが、これらの線形結合も⑨式の同次解である。このことを確認する。⑨式にを代入して整理すると
となる。⑩式に注意すると⑫式の左辺は0となることが分かる。よってが⑨式の同次解であることが確認できた。以下では、この同次解の線形結合のことを完全な同次解と呼ぶことにする。完全な同次解は判別式の値によって性質が異なる。以下では,,の3パターンで確認していく。
Ⅱ-1:の場合(特性根が相異なる実根)
の場合、特性根は、
である。よって、完全な同次解は
である。具体例として、
の2式を見ていく。⑬式の判別式はであり、特性根は相異なる実根
である。よって、完全な同次解は任意の定数を用いて
となる。⑭式の判別式はであり、特性根は相異なる実根
である。よって、完全な同次解は任意の定数を用いて
となる。
Ⅱ-2:の場合(特性根が実重根)
の場合、となり、同次解はとなるが、にをかけた、も同次解となる。(⑨式に代入して式を整理することで確認できる。計算は省略。)よって、完全な同次解は
である。具体例として、
の2式を見ていく。⑰式の判別式はであり、特性根は実重根
である。よって、完全な同次解は任意の定数を用いて
となる。⑰式の判別式はであり、特性根は実重根
である。よって、完全な同次解は任意の定数を用いて
となる。
Ⅱ-3:の場合(特性根が複素根)
の場合、特性根は
となる。さらに、ド・モアブルの定理により、
となる。*1ここで、は任意の定数、は、 はを満たす。具体例として、
の2式を見ていく。㉑式の判別式はであり、特性根は複素根
である。、はを満たすように決定され、である。よって、完全な同次解は任意の定数を用いて
となる。㉒式の判別式はであり、特性根は複素根
である。、はを満たすように決定され、である。よって、完全な同次解は任意の定数を用いて
となる。
Ⅲ:同次解の時間経路
式⑮、⑯、⑲、⑳、㉓、㉔時間経路を確認していく。式⑮、⑯、⑲、⑳ではとし、式㉓、㉔では、とする。時間経路を確認するためのPythonコードを下記に記載する。
import matplotlib.pyplot as plt import math #x:横軸(時間)y:縦軸(yの値) x=[] y=[] #同次解 def homosolu(t): #15式 return 0.5**t+(0.25)**t #16式 #return 1.04**t+(-0.34)**t #19式 #return (0.9)**t+t*(0.9)**t #20式 #return 4**t+t*(4**t) #23式 #return 0.949**t*math.cos(0.567*t) #24式 #return 1.1**t*math.cos(0.757*t) #ループ for i in range(1,30): x.append(i) y.append(homosolu(i)) #グラフ描画 plt.plot(x,y) plt.ylabel("y") plt.xlabel("t")
⑮式:の時間経路は以下の図のようになる。
が大きくなるにつれて、が小さくなり、0に収束する。
⑯式:の時間経路は以下の図のようになる。
が小さい領域では単調な動きではないが、が大きくなるにつれて、が大きくなり発散する。
⑲式:の時間経路は以下の図のようになる。
が小さい領域ではの値が大きくなるが、が大きくなるにつれて、が小さくなり0に収束する。
⑳式:の時間経路は以下の図のようになる。
式からも明らかなように、が大きくなるにつれて、が大きくなり発散する。
㉓式:の時間経路は以下の図のようになる。
が大きくなるにつれて、振幅が小さくなりながら、は0に収束する。
㉔式:の時間経路は以下の図のようになる。
が大きくなるにつれて、振幅が大きくなりながら、は発散する。
*1:詳しい計算過程はエンダース著,新谷・藪訳[2019]のP45~を参照してください。