お勉強メモ

経済学・計量経済学・統計学などのお勉強メモです。

経済学メモ:経済学でよく使う数式「積・商の変化率」

◆本稿の内容
二つの変数xyの積の変化率



\dfrac{\Delta (xy)}{xy}=\dfrac{\Delta x}{x}+\dfrac{\Delta y}{y}・・・①

二つの変数xyの商の変化率



\dfrac{\Delta \left(x/y\right)}{x/y}=\dfrac{\Delta x}{x}-\dfrac{\Delta y}{y}・・・②

以上の二つの公式は経済学で使用する機会が多いです。これら二つの公式の導出方法と、実際の経済データを用いて使い方を確認します。

◆目次

Ⅰ.公式の導出

Ⅰ-1.求め方その1

変数xの変化量を\Delta x、変数yの変化量を\Delta yとする。xyの変化率は



\dfrac{(x+\Delta x)(y+\Delta y)-xy}{xy}=\dfrac{\Delta x}{x}+\dfrac{\Delta y}{y}+\dfrac{\Delta x \Delta y}{xy}

と書ける。

\Delta x,\Delta yが小さいとき、右辺の3項目の値を無視することにすると、*1



\dfrac{\Delta (xy)}{xy}=\dfrac{\Delta x}{x}+\dfrac{\Delta y}{y}

と書ける。

ここで、z=xyとおくと、



\dfrac{\Delta y}{y}=\dfrac{\Delta z}{z}-\dfrac{\Delta x}{x}

と書ける。y=\dfrac{z}{x}であるから、



\dfrac{\Delta (z/x)}{z/x}=\dfrac{\Delta z}{z}-\dfrac{\Delta x}{x}

と書ける。*2

Ⅰ-2.求め方その2

z,x,ytの関数と考える。z(t)=x(t)y(t)の両辺の自然対数をとる。



\log z(t)=\log x(t)+\log y(t)


両辺をt微分し、整理すると



\dfrac{\text{d}\log z(t)}{\text{d}t}=\dfrac{\text{d}\log x(t)}{\text{d}t}+\dfrac{\text{d}\log y(t)}{\text{d}t}\\
\dfrac{\text{d}\log z(t)}{\text{d}z}\times \dfrac{\text{d}z(t)}{\text{d}t}=\dfrac{\text{d}\log x(t)}{\text{d}x}\times \dfrac{\text{d}x(t)}{\text{d}t}+\dfrac{\text{d}\log y(t)}{\text{d}y}\times \dfrac{\text{d}y(t)}{\text{d}t}

と書ける。

ここで、\dfrac{\text{d}A(t)}{\text{d}t}\approx \Delta Aと書くことにすると、



\dfrac{\Delta z}{z}=\dfrac{\Delta (xy)}{xy}=\dfrac{\Delta x}{x}+\dfrac{\Delta y}{y}

と書ける。

z(t)=\dfrac{x(t)}{y(t)}の両辺の自然対数をとり、同様の計算を行うと、



\dfrac{\Delta z}{z}=\dfrac{\Delta (x/y)}{x/y}=\dfrac{\Delta x}{x}-\dfrac{\Delta y}{y}

が得られる。

Ⅱ.応用例

毎月勤労統計調査のデータを用いて、①式と②式を応用してみる。まずは①式の応用例として、名目賃金(現金給与総額)指数と常用雇用指数の積の変化率を求める。次に②式の応用例として、名目賃金(現金給与総額)指数と消費者物価指数の商の変化率を求める。*3

Ⅱ-1.公式①の応用例

名目賃金(現金給与総額)指数と常用雇用指数の積の変化率を公式を使って求める。図のB列とC列は2022年1月~2023年12月の名目賃金指数と常用雇用指数である。(どちらも就業形態計、5人以上の事業所、調査産業計)


図1:名目賃金指数、常用雇用指数

D列はB列とC列を掛け合わせた値である。E、F、G列はそれぞれB、C、D列の前年同月比上昇を通常の求め方*4で算出している。H列は公式①を用いて(つまり、E列+F列)、名目賃金指数の前年同月比上昇と常用雇用指数の前年同月比上昇の和を計算している。G列とH列を比較してみると、おおよそ等しい値になっていることが分かる。*5

Ⅱ-2.公式②の応用例

名目賃金(現金給与総額)指数と消費者物価指数の商の変化率を公式を使って求める。図のB列とC列は2022年1月~2023年12月の名目賃金指数(就業形態計、5人以上の事業所、調査産業計)と消費者物価指数(帰属家賃を除く総合指数)である。

D列はB列をC列で割った値である。E、F、G列はそれぞれB、C、D列の前年同月比上昇を通常の求め方で算出している。H列は公式②を用いて(つまり、E列-F列)、名目賃金指数の前年同月比上昇と消費者物価指数の前年同月比上昇の差を計算している。G列とH列を比較してみると、おおよそ等しい値になっていることが分かる。*6

*1:例えば、\Delta x0.01\Delta y0.02なら\Delta x \Delta y0.01×0.02=0.0002という非常に小さな値になるので無視してしまっても大きな影響はないという意味です。

*2:導出の都合上、zxの式になっていますが、xyの式に読み替えてください。

*3:名目賃金指数と常用雇用指数はここ消費者物価指数ここから取得しました。

*4:[今月の値-前年同月の値]÷前年同月の値*100

*5:私は毎月勤労統計調査のデータで見るときにまず初めに常用雇用指数の上昇率を確認します。雇用の確保こそがマクロ経済政策の最重要課題だと考えているからです。そして、その次に見るのがここで求めた名目賃金指数の上昇率と常用雇用指数の上昇率を足し合わせた値です。常用雇用が増えていても、それが単なるワークシェアリングであれば意味がありません。例えば、1人の労働者が時給1000円で8時間働いている状態から、新たにもう1人を雇って、それぞれの労働者に時給1000円で4時間働いてもらうという状態に変化したとすれば、雇用が増えてはいても、労働者全体として稼得した収入は変わっていません。雇用の増加だけでなく、労働者全体として稼得した収入が伸びているかどうかということにも注目しています。

*6:名目賃金指数の上昇率から消費者物価指数の上昇率を差し引いたものを実質賃金上昇率といいます。ちなみに私は実質賃金上昇にはあまり注目していません。[就業形態計の]名目賃金上昇率は短時間労働者の増加、減少などによる労働者の構成変化による影響を受けてしまうために、名目賃金上昇率が高いから良い、低いから良くないというように単純な形で判断を下すことが難しいからです。どちらかというと、労働者全体として稼得した収入[名目賃金指数の上昇率と常用雇用指数の上昇率を足し合わせた値]から消費者物価指数の上昇率を差し引いた値のほうに注目しています。元厚生労働省統計情報部長、元大正大学教授の高原正之氏も同じ値に注目しています。