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経済学メモ:債務残高対GDP比、差分方程式(漸化式)

1.本稿の内容
政府の予算制約式から債務残高対GDP比の差分方程式を導出し、パラメータの値で場合分けをして安定性(本稿では債務残高対GDP比が収束する場合は「時間経路が安定的」、発散する場合は「時間経路が不安定的」とよぶことにします。)を確認します。Pythonを用いて簡単なシミュレーションも行います。

2.本文

Ⅰ.債務残高対GDP比の差分方程式の導出

政府の予算制約式は以下のように書ける。



B_t=(1+r_t)B_{t-1}+PB_t

B_tt期末の債務残高,
r_tはt期の金利,
PB_tはt期の基礎的財政収支赤字。

両辺をt期のGDPY_tで割る。



\dfrac{B_t}{Y_t}=(1+r_t)\dfrac{B_{t-1}}{Y_t}+\dfrac{PB_t}{Y_t}

t-1期からt期にかけての経済成長率g_t



g_t=\dfrac{Y_t-Y_{t-1}}{Y_{t-1}}=\dfrac{Y_t}{Y_{t-1}}-1

と表し、式を整理すると、



\dfrac{B_t}{Y_t}=(1+r_t)\dfrac{B_{t-1}}{Y_{t-1}}\dfrac{Y_{t-1}}{Y_t}+\dfrac{PB_t}{Y_t}\\
\dfrac{B_t}{Y_t}=\dfrac{(1+r_t)}{(1+g_t)}\dfrac{B_{t-1}}{Y_{t-1}}+\dfrac{PB_t}{Y_t}・・・①

となる。①式は1次の差分方程式である。*1

Ⅱ.差分方程式の解法

y_{t+1}=ay_t+b型の差分方程式の解法は下記の通りである。*2



y_{t+1}=ay_t+b (a,bは定数) のとき\\
y_t=a^t(y_0-\dfrac{b}{1-a})+\dfrac{b}{1-a}  (y_0は初項)\\
※a=1 のとき y_t=y_0+tb


\dfrac{B_t}{Y_t}y_tとおき,r_t,g_t,\dfrac{PB_t}{Y_t}をそれぞれ、r,g,pb (r,g,pbは定数)とおいて、y_0を債務残高対GDP比の初期値として、①式に上記の解法を適用すると、



y_t=\left(\dfrac{1+r}{1+g}\right)^t\left(y_0-\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}\right)+\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}・・・②  \\
※g=r のとき y_t=y_0+tpb

となる。

Ⅲ.安定性の確認

成長率g金利rに関して、
(1)g>r
(2)g=r
(3)g<r

の3パターンに分類して、t→\inftyのときの②式のy_tを求めて安定性を確認する。

(1)g>rのとき

\left|\dfrac{1+r}{1+g}\right|<1であるから、t→\inftyのとき、②式の\left(\dfrac{1+r}{1+g}\right)^t0に収束する。よって、



\lim_{t \to \infty}y_t=\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}

となり、y_{t}pbの値に関わらず収束し、時間経路は安定的である。*3

次に①式(r_t,g_t,pb_tは定数とする)を用いて、位相図を描く方法で、y_tの安定性を確認する。pb>0の場合を考える。


図1 債務残高対GDP比の位相図

①式はy^{*}=\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}で45度線と交わる。あるt期において、y_ty_t^{'}(>y^{*})にあるとすると、次期はy_{t+1}^{'}になり、さらにその次期はy_{t+2}^{'}となり、y^{*}へ収束していく。あるt期において、y_ty_t^{''}(<y^{*})にあるとすると、次期はy_{t+1}^{''}になり、さらにその次期はy_{t+2}^{''}となり、y^{*}へ収束していく。
他のパターンでも同様の方法で位相図を描くことができる。以下では位相図は省略する。

(2)g=rのとき



y_t=y_0+tpb
である。

(2)-Ⅰ:pb>0のとき



\lim_{t \to \infty}y_t=\infty

となるから、y_{t}\inftyに発散し、時間経路は不安定的である。

(2)-Ⅱ:pb=0のとき



\lim_{t \to \infty}y_t=y_0

となるから、y_{t}y_{0}に収束し、時間経路は安定的である。

(2)-Ⅲ:pb<0のとき



\lim_{t \to \infty}y_t=-\infty

となるから、y_{t}-\inftyに発散し、時間経路は不安定的である。

(3)g<rのとき

\left|\dfrac{1+r}{1+g}\right|>1であるから、t→\inftyのとき、②式の\left(\dfrac{1+r}{1+g}\right)^t\inftyに発散する。よって、y_{0}\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}の大小関係でt→\inftyのときのy_{t}の値が決まる。

(3)-Ⅰ:y_0>\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}のとき



\lim_{t \to \infty}y_t=\infty

となるから、y_{t}\inftyに発散し、時間経路は不安定的である。

(3)-Ⅱ:y_0=\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}のとき



\lim_{t \to \infty}y_t=\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}

となるから、y_{t}\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}に収束し、時間経路は安定的である。

(3)-Ⅲ:y_0<\dfrac{pb}{1-\dfrac{1+r}{1+g}}のとき



\lim_{t \to \infty}y_t=-\infty

となるから、y_{t}-\inftyに発散し、時間経路は不安定的である。

Ⅳ.サンプルコード

成長率>金利かつ基礎的財政収支赤字のパターンを例にシミュレーションをしてみる。*4Ⅲで確認したように、成長率>金利の場合は基礎的財政収支GDP比の値に関わらず債務残高対GDP比は収束し、時間経路は安定的となる。サンプルコードでは一例として
債務残高対GDP比の初期値を200%,
金利を1%,
成長率を2%,
基礎的財政収支赤字対GDP比を3%
とおいた。

#Pythonサンプルコード
import matplotlib.pyplot as plt

#パラメータ
y_0=2 #債務残高対GDP比の初期値
r=0.01 #金利
g=0.02 #成長率
pb=0.03 #基礎的財政収支赤字対GDP比

a=(1+r)/(1+g)
b=pb

#差分方程式(金利>成長率or金利<成長率の場合)
def difeq1(t):
    return a**t*(y_0-(b/(1-a)))+b/(1-a)
#差分方程式(金利=成長率の場合)
def difeq2(t):
    return y_0+t*b

x=[]
y=[]

if r==g:#金利=成長率の場合
    for i in range(0,1000):
        x.append(i)
        y.append(difeq2(i)*100)
else:#金利>成長率or金利<成長率の場合
    for i in range(0,1000):
        x.append(i)
        y.append(difeq1(i)*100)
    
#グラフ描画    
plt.plot(x,y) 
plt.ylabel("債務残高対GDP比(%)", fontname="MS Gothic")
plt.xlabel("時間", fontname="MS Gothic")
plt.title("成長率>金利,PB赤字の場合",fontname="MS Gothic")

実行結果

実行結果から、成長率>金利かつ基礎的財政収支赤字の場合は債務残高対GDP比が収束(サンプルコードの数値例では約306%)し、時間経路は安定的であることが分かる。

*1:連続時間で考えても同様の式が導出できます。
B,Yを時間tの関数と考え(つまり、B=B(t),Y=Y(t)※表記簡略化のため以下では(t)は省略します。)、
\dfrac{B}{Y}を時間t微分する。


\begin{align}
\left( \dfrac{B}{Y} \right)^{'}&=\dfrac{B^{'}Y-BY^{'}}{Y^{2}}\\
&=\dfrac{B^{'}}{Y}-\dfrac{B}{Y}\dfrac{Y^{'}}{Y}
\end{align}
B^{'}B^{'}=rB+PBである(本文の予算制約式B_{t}-B_{t-1}=r_{t}B_{t-1}+PB_tに対応します)。\dfrac{Y^{'}}{Y}=gと表記することにして、これを上式に代入すると、

\begin{align}
\left( \dfrac{B}{Y} \right)^{'}&=\dfrac{rB+PB}{Y}-\dfrac{B}{Y}g\\
&=(r-g)\dfrac{B}{Y}+\dfrac{PB}{Y}
\end{align}
と書ける。(連続時間では\dfrac{B}{Y}の係数の分母に1+gが出てきません。)

*2:詳細は門川(2018)の第21章を参照してください。

*3:pb<0の場合はy_{t}はマイナスの値に収束することになります。債務残高の値がマイナスってどういうこと?と思われるかもしれませんが、これは債務を完済し、さらに純資産を蓄積している状況と捉えてください。

*4:ここでの数値例はブランシャール著,田代訳[2023]のP100~101に掲載されているものと同じです。