・本稿の内容
VARと識別に関する基本的な内容のメモです。
・本文
Ⅰ.構造VAR・誘導VAR
政府の政策変数(具体例として金融政策)を、実体経済の変数(具体例としてGDP)をとおいて、
以下の2変量のモデルを考える。
ここで、
①とは定常
②とはホワイトノイズ
つまり、= = ,=,=
③とは無相関
つまり、==
である。
①、②式を行列を用いて書き直すと、
となる。
=, =, =, =, =,=
とおくと、
と書ける。
両辺にを左からかけると、
ただし、, , である。
ここで、=, =, =
とおいて、
と書ける。
①、②式で記述されたモデルを構造VARモデル、③、④式で記述されたモデルを誘導VARモデル
と呼ぶ。
Ⅱ.ショックの識別
③式と④式のとを明示的に表記し、
構造VARの撹乱項と誘導VARの撹乱項の関係を確認する。
であるから、
と書ける。
とに相関がないという意味で、純粋なショックであり、構造ショックと呼ぶ。
誘導VARの撹乱項とは式から分かるように構造ショックの線形結合であり、
共通の構造ショックを含んでいるから、互いに相関している。
つまり、「金融政策ショック」や「GDPショック」といった経済学的に解釈可能な構造ショックとして解釈することができない。
とから、経済学的に解釈可能な構造ショックを抽出する作業のことを識別と呼ぶ。
構造VARモデルの①式と②式は説明変数と撹乱項が相関しているため、
OLSで直接推定することはできないが、誘導VARモデルの③式と④式はOLSで直接推定することができる。
しかし、誘導VARモデルの③式、④式の推定結果から、構造VARモデルのパラメータを得ることはできない。
なぜなら、構造VARモデルの①式と②式には
という10個のパラメータが存在するが、
誘導VARモデルの③式と④式には
という9個のパラメータが存在し、
「構造VARモデルのパラメータ数>誘導VARモデルのパラメータ数」となっているからである。
このとき、①式、②式は「過少識別である」と表現する。
構造ショックを識別するためには構造VARモデルのパラメータのどれか1つに制約をかける必要がある。
ここで、期の金融政策を決定する際に期のGDPの情報を用いることができないとする。
すなわち、金融政策決定における実体経済に関する情報の短期的な遅れを想定するということである。
=という制約を課すことで、上記の想定をモデルに取り入れることができる。
このとき、
と書ける。
よって、
となる。
=という制約が課された時の構造VARモデルは以下のように書ける。
上式をさらに計算すると、
と書ける。
上式と③式、④式の対応関係を考えると、
, , , , ,
が得られる。
これらの関係式から、構造VARモデルのパラメータは誘導VARのパラメータから一意に導出されていることがわかる。
よって、経済学的に解釈可能な構造ショックを識別できたことになる。
以上のように、行列に制約を課し(本稿の例では)、三角行列とすることで
構造ショックを識別する方法をコレスキー分解と呼ぶ。
・参考文献
北岡孝義・高橋青天・矢野順治 (2008)『EViewsで学ぶ実証分析入門 応用編』日本評論社
村尾博 (2019)『Rで学ぶVAR実証分析』オーム社
西山慶彦・新谷元嗣・川口大司・奥井亮 (2019)『計量経済学』有斐閣
ウォルター・エンダース著,新谷元嗣・薮友良訳 (2019)『実証のための計量時系列分析』有斐閣